佐川美術館
先日、滋賀県の佐川美術館へ行ってまいりました。
運送業界の大手『佐川急便』の創立40周年を記念して1998年に建てられた美術館です。
大手ゼネコンの竹中工務店が設計施工で、大手だからこその緻密さと妥協のなさが随所に光ります。
チケット売り場は庇の深い切妻屋根で覆われた小屋のような建物で、その無機質な佇まいにやや緊張感すら覚える入館ゲートです。
入館ゲートを抜けると、『水の神殿』と呼ばれる本館のお目見え。
そのスケールの大きさに驚愕、、、。
水に浮かぶように建てられた本館は、切妻の大屋根とそれを支える柱が並ぶ、シンプルかつダイナミックなデザイン。無機質で色のないイメージの建物が周りの景色を一層映えさせ、水の色、空の色、草木の色を鮮やかに映しだします。
エントランスへはアプローチを歩いて向かいます。このアプローチ、最後まで建物入り口が見えないのでワクワク度が違います、、、!
アプローチの壁のコンクリートは杉板型枠が使用されていて、とても繊細。
クールな印象が強い建築物ですが水の揺らぎや、壁に映り込むその反射、前記したような周りの色の美しさと相まって建物全体の親しみやすさを演出しています。
アプローチを歩いていると、訪問前に弊社建築士に見学ポイント『変態的にぴったりと合わせられた線』まさにそれを発見。
写真のとおり角度の異なる軒桁の筋もぴったりと合わせられており、
(ちなみに屋根の筋ともぴったり)
下を見ると歩いているタイルと水庭の中もタイルの線もぴったりではないですか、、、。
怖い、、、笑
この時の展示は「恐竜展」でしたので、小さな子供がたくさん。
物心つく前からこういった優れた建築物に触れられるのはとても贅沢なことだなぁと。
私も3歳の息子と訪問したのですが目地にそってカクカク歩いてみたり、水庭の切れ目から流れる水をじっと観察したり、壁に移る水の陰に怯えたり、、、。
広い視野でこの建築物を楽しんでいました。
さあエントランスです。
低めに設定された天井が、外の開かれた空間をのんびり歩いてきた私たちに、「ここからは作品に集中せよ」と伝えてきます。入館口でも感じられた、居心地の良い緊張感がここでも。
本館展示の奥は地下の別館へ続いています。
水庭の中へ潜り込むような構成になっており、その先にはホールと展示スペース、茶室があります。
残念ながら茶室は予約制(現状コロナのため休館)で見ることができませんでした、、。
こちらの別館は楽吉左衛門館と呼ばれ、十五代楽氏が設計創案をしたことで知られています。
地上の水に浮いた空間とは対照的な地の空間。
ホールは薄暗い中に地上から差し込む水と光の陰が美しく、時間によって姿を変えるのでいつまでもそこに居座ってしまいそうでした。
撮影禁止の展示室は暗闇のなかに楽氏の作品が浮かび上がっているように見え、
そこは「楽氏による楽氏のための美術館」。
照明は作品を照らしつつ、こちらから見ると直線の光束が床まで届き実に美しかったです。
茶室に入れなかったのでこのブログを書くにあたって調べてみると楽氏の「水面と同じ高さに座す。人は自然と同じレベル、目線で生きていかなければならない」というすばらしい言葉を見つけました。
是非次回訪問するときは必ずや茶室の予約もしていきます、、涙
表向きは竹中の技術を、裏では楽氏の造形美を。
地上と地下、明と暗、陰と陽のようなバランスで二つの棟が役割を果たし
一つの大きな作品となっている深さに感動しました。
建物が建つとどうしても周辺の景色が変わってしまいますが、こちらはそれを感じさせません。
建物全体の高さボリュームは非常に小さいので道路からは見えないほどですし、琵琶湖沿岸の周囲と意識的に空気感を合わせていることが感じられます。
そういった配慮が滋賀県の守山に建てることの意味と地域へのリスペクトを表し、
住民にとっても誇りとなり、町の一部として長く続いていくことを可能としていると実感しました。